はいせつケアは医療と介護の接点。上田朋宏ドクターとの対談。
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上田朋宏さん×浜田きよ子 対談 『はいせつケアは医療と介護の接点』

上田朋宏医師
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医師が知らない間に布おむつが紙おむつになった

上田朋宏さん
写真:上田朋宏さん(右)
むつき庵顧問/NPO快適な排泄をめざす全国ネットの会理事長/泌尿器科医/上田クリニック院長(京都府京都市中京区場之町599 CUBE OIKE 6階)。NHK 『ためしてガッテン』で情報公開され、多くの人に衝撃を与えた「間質性膀胱炎/かんしつせいぼうこうえん」の診断治療法を発見。泌尿器科医となった当初より高齢者のおむつや尿道留置バルーン問題の解決に取り組み、排尿トラブルが引き起こすQOL低下からの回復や、QOLを低下させないための治療に尽力。泌尿器に関する国際学会での発表や学会主宰など精力的に活動を展開。

NPO快適な排泄をめざす全国ネットの会
http://www.hainyo-net.org/index.html

上田クリニック
http://www.uedaclinic.net

(司会)
  ――上田先生は泌尿器科の専門医として活動され、医療現場だけでなく、社会に対しても排尿トラブルや生活に関して語りかけてきたことが、介護の領域に活動の主軸を置かれていた浜田きよ子さんと出会っていかれたわけです。そのかかわりが生まれたきっかけを教えてください。

 

浜田きよ子 私は日本コンチネンス協会の会員でもあったし、上田先生と出会ったのは、私が実行委員長で日本コンチネンス協会のセミナーを開催した時なんです。排尿トラブルを抱えた人の疾病などを把握することはとても重要ですから、先生にそのあたりを話していただいたのです。
  病気が治った、あるいは治療中において、前立腺がんの手術後など尿漏れが起こる。排泄トラブルは身体機能とか認知の問題とか、いろんなことによって成り立っています。
  まさに暮らしというあたりから、治療も必要だし住環境整備、福祉用具といった視点が言うまでもなく必要でしょう。暮らしを取り戻すというときには治療だけではない生活の回復が必要。私は治療以外の用具や環境を整えることを仕事としてやっていました。体の部分で、私は上田先生にいろいろ教えていただきたかったし知りたかったし。というのが出会った頃の状況でした。

上田朋宏さん 僕の取っ掛かりは特殊です。もともと現場で、1987年88年頃でしたが、排尿障害とか尿漏れを看た時に、治療方法もないし、評価法もない。でも現場は困っている。さてどうするかと医師が悩んでいる。そういう時にびっくりしたことがあるんです。
上田朋宏氏  それは何かと言いましたら、医療には治療法もないが、生活を見る現場は進んでいたんです。劇的にまさに革命が起こったんです。布おむつが紙おむつになった。医者が知らない間にこの大改革が起きていた。実際、医学的には確立されていなかったのですが、僕はこれではいけないと自分で勉強して、その評価や治療に関する方法を提供しようとしました。同じ頃、浜田さんは逆に、生活の現場に放り出された患者さんたちを、おそらく自分たちで何とかしないといけないと考えておられた。そこに接点があったんです。

 

浜田きよ子 体というところから看ていかれることと、暮らしという体を含め人間関係や好みなどから見ていこうとしたい私たちには、上田先生の学びが必要だった。おむつのことなどは知っていただくことで、患者さんへのご助言も変わっていくだろうし。ということがあった。

 

上田朋宏さん 先に言いましたように、排泄に関する社会の変革は、知らない間に進んでいたのです。経験則と一生懸命向き合っている介護の世界の人たちが、自らの限られた知識の中でがんばっておられました。医者はそれを治療対象と見ていなくて放置していたのです。僕がそれを治療対象として発表したのは1989年くらい。当時はものすごく取材を受け、同じ時期に西村かおるさん(日本コンチネンス協会会長)が日本に帰ってきた時に現:日本老年泌尿器科学会を設立し、僕も第一回から参加しました。
  僕がおむつ外し、バルーン外しという仕事をしていたのですが、なぜそれをしたのかというと、放置されていただけの人たちが対処法も分からずに困っていたからです。僕にはある程度、どうすれば良くなるのかが見えていました。排尿はある程度安定していくと生活そのものなんです。布おむつが漏れやすかろうが、おしっこが出にくかろうが、本人の生活は続いていく。本当にそこに向き合っているのが介護職で、医療職は治療対象とは見ずに年のせいだとあきらめ切り捨てる傾向がずっと続いていきます。
  浜田さんたちと一緒に活動するようになり、おむつフィッターはいろんな引き出しを持って医療につないでいくことができることと知りました。僕らは適切なおむつの勉強をすることで、全体を見ていく機運が高まるんじゃないかと思ったのです。
  でも、そんなにうまくはいかないですね。日本は国としては排泄ケアは切り捨てるという流れが強まっている。社会はオリンピックに向けてバブルっぽくなり始めているが、その先にあるのは切り捨てなんですよ。

 

医療と介護は連続性がある。本当にあるの?

 

浜田きよ子 切捨て問題はどんな風に感じ取っておられるのでしょうか。

 

上田朋宏さん
この日は、NPO快適な排泄をめざす全国ネットの会の市民公開講座が開かれました。対談は講演前に行われました。

上田朋宏さん 言葉の上では「医療と介護は連続性がある」と言いながら社会に対してその関連性を示しますが、実際は保険を削っていくので質は下がるんです。

 

浜田きよ子 介護もそう。介護保険は削る。

 

上田朋宏さん もちろん無駄もあるし、本人に合わないおむつでも無制限に支給するところもあるし、現場でもそういう改善しないといけませんが、「排泄ケア」というものを、質を上げてなおかつ国民に提供できるデータを集めていく学問にしないといけないのです。

 

浜田きよ子 むつき庵の講習に来てくれる人たちはものすごく熱心。各級の研修で講師に来ていただく先生たちもおっしゃってくれますが、学ぶ姿勢がほかとは違う。受講する方々はそれぞれの専門分野でいろいろなことを学んできています。

私たちは、それぞれの分野では語られてきたことを排泄に組み替えています。つまり排泄ケアの枠組みを「暮らし」という視点で再構築しているのです。だからもしかしたら知っている内容もあるのだけれど、その視点と暮らし全体とのつながりを学ぶ機会がなかったから、面白がってくれているのかなと。医師の受講生も増えています。おむつフィッター2級、1級研修はキャンセル待ちが続いています。1年以上待たないと受講できない。このあたりは変えていかないと・・・。

 

上田朋宏さん 医療提供者があまりにも知らなさ過ぎるのが今の問題です。医師なのだから、おむつの処方箋を提示できるレベルの仕事ができれば社会は変わる。その辺を上手に実現していかないと、本当に、国の流れってすぐに予算を削る話になるんです。

 

――医師で、自分の専門領域外のこととシームレスで付き合っていくのは、個人のセンスの問題ではないですか?

 

上田朋宏さん 今、医師が足りないといわれていますでしょう。実際に田舎の病院では、外科も内科も全部やる。往診に行けば相手の生活が分かる。何が問題か大体分かる。行って分かる人は普通。行っても分からない人もいる。行かなくてもイメージできる人もいる。いろんなレベルがあります。ほとんどの人が医者になったのであれば、行ったら分かる。気づく。その資質は持ち合わせています。
  でも、気づいてしまうとこれは大変だと思って、手を引く人もあれば、これは勉強しないといけないともう一度勉強しなおすためにおむつフィッターなどの勉強会に行く人もいます。自分にどんな受け皿があるか、どんなアンテナがあるか。どうしたらその人の日常生活が良くなるか。相手の置かれている状況が分かればどうすれば良いのかも分かります。
  医師だけでなく訪問看護師、介護職、家族などそれぞれの立場でかかわり方を見直すことが必要で、30分に1回オムツを替えていた人が、1日に数回で済むようになるなど、良くなる例がいくらでもあるんです。でも実際に、ひとつひとつ組み立てていく医者は少ないのです。
  介護職は介護職で、医師との付き合いはハードルが高いと思い込んでいることも少なくないでしょう。
  排尿、排泄は患者中心、家族中心ですから、介護も医療も同じテーブルの上で仕事ができる状況を作らなければならないのです。

 

暮らしを見る医療と、暮らしから切り離された医療

 

――医療と介護の関わり方の理想があって、その理想に照らし合わせた時には現実は、さほど充実はしていないと言えます。おむつフィッターの研修や活動に医師や看護師という医療分野の方が参加なさると、鮮烈な印象が生まれるのもその理想と現実のズレがあればこそでしょうから。そこで思うのですが、浜田さんが「暮らし」という言葉を使う時に、その意味は翻訳せずに諒解しあえたのでしょうか。

 

上田朋宏さん はい。なぜそれができるのかというと、僕は、医療はずっと暮らしを見てきたことを知っているからです。患者の家に入っていって、家の雨戸を外しておじいちゃんを連れ出すなど、そういうことも医療の中に組み込まれていました。しかしいつしか、病院の外来に来てもらって、看て、家に帰すようになっていった。この仕組みができたことによって医療の中から暮らしが消えたんです。

 

浜田きよ子 昨日は富山に行きました。それは「創傷・栄養と人生を考える」という集いで医療関係者が多く参加されていました。発表者の何人かは地域医療、ターミナルケアをやっている医師。超高齢社会でしょう。どこでもそうですが、人がたくさん亡くなっていきます。医療は今までは「治す医療」だったのですが、結局は人は必ず死ぬから、治すだけではなくその人の人生のなかで、いつか亡くなる形を自分たちが引き受ける。その人の最善を考えながら薬や治療を考えることをやっていく。そんな話を異口同音にされているのを聞きました。先端医療や移植手術などの必要性と、あまり語られなかった人の終焉を組み込んだ医療を考える時に、排泄が人に与える影響はものすごく大きいのです。

 

上田朋宏さん データ的には、バルーン管理が多い。でもそれが表に出ない。2025年にむけて国は病院の機能分化をさせて【高度先進医療】と【回復期】と【在宅】になります。その時に排尿はどうなっているの。そこについては何の議論もないんですよ。

 

浜田きよ子 排泄は日々のことだが、在宅ではおなかがパンパンに膨らんでも残尿が放置されたり、医者がかかわっているのにそれに気づかないこともある。

 

上田朋宏さん そこが残念。いろいろアンケート調査をしていますが、結構、介護の現場では生活している人のニーズが高い。言われたら対応するが、はじめから対応には組み込んでいないのです。

 

間質性膀胱炎を解決したい

 

浜田きよ子 上田先生は、【間質性膀胱炎/かんしつせいぼうこうえん】の世界的大家。謎の膀胱炎でこれを解明された当事者です。

 

上田朋宏さん そのことなんですが、あと2年で解決しないといけないんですよ。実際、自分がやりたいのは高齢者の排尿管理、理想の介護施設を作りつつやっていきたい。でもその前に間質性膀胱炎の新薬などを確立させないといけないんです。
  なぜかというと、北海道や沖縄から、京都にある私のクリニックに患者さんが来る。こんなおかしなことがあってたまるか。東京からもいっぱい来る。週に1回くらい東京のどこかで診療しようかと思うくらい。こんなことはおかしいんです。

 

――それをおかしいといえる感性がすごいのですが。普通は「よし」なんですけど…。

 

上田朋宏さん 地方で講演をすると、最後に質問が来るんです。「どうすれば先生のクリニックを受診できますか」となる。その地元の先生の治療レベルを上げるために講演をしているのに、行けば行くほど患者さんが集まってしまう。それはひとつには、この病気の治療法がないから。その問題があります。ただし、医師の裁量で今、保険適用になっている薬を使うことは違法ではないのです。それをするためには、いつも厚労省と交渉が必要になります。そんな面倒なことは誰もしない。だからここを解決しないといけません。

 

――はたから見ると、ではこのドクターは孤立しないのか?と思えます。

 

上田朋宏さん それは孤立しますよ。でも、僕自身が国際会議を主宰するなどの活動をしています。日本の学界では孤立する。でも、間質性膀胱炎のようにアメリカの雑誌のレビューに出てしまうと、例えば今日もフランスの医師から論文の原稿が届きました。内容をチェックして返してあげないといけない。
  世界の流れとしてはそんなことになっています。アメリカやヨーロッパではそうやって関わりを求められる。
  でも、日本では孤立する。それで負けてはだめ。患者とのかかわりだから。苦しんでいる人がたくさんいるんだから。だから、浜田さんにはぜひとも一緒にやっていっていただきたい。

 

浜田きよ子 ぜひ。

 

上田朋宏さん それから、さきほどの「シームレス」という言葉は、事実ではないんですよ。あれはコピーライトの上手な人が使う魔法の言葉なんです。現実はシームレスにできない。もともとのベクトルが違うから。
  介護にとってのベストは、「24時間べったりと張り付くこと」です。医学にとってのベストは「入院させずに治したほうが良い」です。だから、介護に対して制度設計上制限が加えられるんです。
  シームレスにつながっていたら、介護への制限は起こりません。絶対にこの人にはおむつ交換が大変なのに、要支援とかの判定になる。ベクトルが違うのに、くっついている。これは制度設計の問題。「シームレスな」と必ず言われるが、絶対にそうならない。だから面倒なことは【在宅】に持っていこうとする。そして、そうするための準備が始まってしまっています。

 

――その、相容れないなんとなく気持ち悪いところを、それでも何とかできてしまうのは、個人の技量等のなせる技でもあって、お二人はご自身の領域においてどうにかしてしまう。でもそこにいたっていない方々は、制度に振り回されてしまう。

 

浜田きよ子 そういったことも含めて上田先生には介護と医療の接点としてお付き合いいただきたいのです。

 

上田朋宏さん こちらこそ、お願いいたします。

 

上田氏講演の様子 上田朋宏さん講演
おむつの講演 快適な排尿をめざす全国ネットの会

 

 ――Fin.

取材メモ:2014年10月、京都に於いて実施。

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