HOME > 考える介護のために・対談シリーズ > おむつフィッタークラブ代表世話人 三谷香代さん
――介護職、看護職、それぞれの立場から見たはいせつケアの同じ点、違う点についてどのように捉えておられますか。現場では立ち位置が異なるでしょう。
三谷さん 立ち位置も違いますが、「やれること」も、医療と介護は違う点があります。
人によってはそこに壁ができてしまうこともあります。
でも本当は、その介護、看護するべき相手にかかわる時に、ケアする側同士に壁があってはいけないので、お互いに、その人が良くなっていくために協力していくことがすごく大切です。
看護師さんは医療を学んできましたし、介護士さんは介護を学んできたので、対応の仕方が変わったりするのはすごくあります。
排泄についても、その人を中心に皆がかかわるようにできたら良いと思います。
お互いの視点が違う部分はあっても、その人が、いかに良い生活を送れるかを考えて関わるべきです。
浜田きよ子 三谷さんがおっしゃったとおりです。おむつフィッター研修を始めた理由はまさにそこです。専門性の良い点とそれでけでは見えないところがあります。医療の専門ですとどうしても、治療ということがその専門性になりますから「その人の排泄トラブルをどう治療していくか?」ということが大事なテーマです。でも、人はそれを抱えたまま、生きていく時間や日常もあります。一方、介護職はケアを中心にすることでつい疾病を見逃したりとか、そこでいくらトイレ誘導しても、膀胱機能、尿路障害まで見ていなかったら、ケアの質は良くならないですよね。
医療と介護は両方大事なのに、それを両方大事だとして伝える機会が少なかったりします。
この「専門性の谷間」をどうやって埋めていくのか。
そのことは暮らしていく、亡くなっていく、どちらもすごく大切です。
排泄トラブルの原因だけでなく、豊かに暮らしていく対策も重要で、それをどう考え、具体的にどうするかは、おむつフィッター研修でやりたかったことです。その意味では、そこを十分、共有していただけていると思います。
三谷さん おむつフィッター研修では、多職種の方々が参加され、事例検討をします。
自分の中にない、いろんな目線で、その人へのアプローチの仕方を考えるのですが、本当にたくさんのアプローチが出てきて、自分が、「こんな視点があったのか」と驚きます。
事例検討していく中で新たな気づきがいっぱい出てきます。
自分だけでは発想できないことが生まれてきます。
学びの場を提供していただいて、いまだに、むつき庵で皆さんとかかわることは、自分にはなかった気づきが本当にたくさんいただけています。
そうすることで、自分の中でも視野が広がり、職場に帰った時には、ケアする方への見方、アプローチが変わります。その人を中心に考えていくということができるようになっていくように思います。
医療って、たとえば相手が入院されているのだとしたら、その人が入院している間のことしか見えなかったりします。私の場合は、今、リハビリの方々と取り組んでいるのは、この人の今だけではなく、今後をどうやって生活していけるのか?なので、入院した時から、排泄をどう組み立てられるか、ということをリハビリと一緒に考えています。
2級、1級の講師である下元佳子先生にもポジショニングなど、いろんなことを教えていただきながら、トータルで、入院から在宅へ変化する時、ご自宅で良い生活を送れるように考えていくことができるようになったこと、その考え方ができるようになってきたことが、大切だと思います。
――そもそも、排泄ケアは在宅でできることなのでしょうか
三谷さん できます、できるというと語弊があるかもしれませんが、まったくはじめて取り組むご家族でも、家にあるものを活用していくと、できることはたくさんあります。
家にあるものを上手に使うことができれば。そのために、こちら側も福祉用具のことを知っておくとご家族に話すことができます。
扉の開閉のしやすさとか、トイレの座面の高さ調節だったり、手すりが一つあるだけで使い勝手が違います。自力での排泄は無理だと思っている方でも、手すりがあるだけで座れたりお尻を浮かすことができたり。
浜田きよ子 在宅で暮らす時、本人や家族は「今の大変さ」しか見えなくなっていることが多いようです。私たちは、福祉用具や疾病のこと、身体にどう向き合うのかを学び、その知識などから今後のことが幾分かお伝ええきます。もちろんこの今後は、本人や家族とともに考えていくものですが、これからの可能性のようなものが少しでもご本人や家族が感じられたら、例えばお尻まわりが心地よくなること、身体が動きやすくなっていくこと、ポータブルトイレやしびんなどの福祉用具があってそれを使うことができるということを想像できれば、「欲」が出てきます。「こんなところに行ってみたい」「あんなこともできるかもしれない」というような。私はその見通しがすごく大事なんだと思っています。それが無くて、現状の身体と向き合うだけでは、介護って互いにいっそう大変なものになると思います。
三谷さん そうなんです。大変なんです。
浜田きよ子 希望って、本人の意欲だみたいなことをよく言うのですが、いろんな情報がなかったら、意欲はわかないですよ。家族も大変な介護の中で、これからのことは見えなくなっています。ですが、いろんなことが可能になっていくであろうという、それがリハビリだったり、家のちょっとした変化だったり、福祉用具だったり、衣服の工夫だったり、食べることだったり、そんなことを感じることができれば、本人の意欲も家族も変わってくると思うのです。
私が排泄をテーマにしたのは、生活のすべては排泄にかかわるからです。そこが良い方向に変わることは、ご本人や家族にとっての意欲につながることなんですよ。
そんな希望がものすごく大事だと思っています。
三谷さん 外に出れないとか、紙パンツで恥ずかしいから旅行に行けないとか、そういった悩みを持っておられる方が、排泄が改善すると、また外出してみようかと思える時がありますね。ちょっとしたことですが、それをきっかけとして、楽しみがどんどん増えていくと思います。自分もできることが増える、その喜びが、在宅でもご家族のほうにも、嬉しいこと、お互いにプラスになっていくんじゃないかと思います。
浜田きよ子 排泄ケアは暮らしのすべてにかかわりますから、ひとつの専門性だけでは、うまくいかないというのをを痛感してきました。
だから暮らし全体と本人、という視点でケアを考えたいのです。これは私が研修を始めたり、むつき庵設立を考えるようになったきっかけです。
その中で三谷さんのように共感し理解を得るような方に出会えていくのは嬉しいことです。
三谷さんは「おむつフィッター倶楽部」の代表世話人でもあり、お忙しい中その役を引き受けていただき、とても重要なさまざまなことをを担っていただいています。
三谷さん むつき庵とかかわらせていただいたことで視野が広がりました。
おむつフィッター研修でも、浜田先生がいろんな講師の方々にご依頼されていて、その先生方の話を聞くことで、いろんな事柄がかかわりあうことで、その人がずっと良い生活を送れるように、私もまたかかわりたいと思うようになります。
浜田きよ子 おむつフィッター倶楽部の活動もおかげで広がってきました。
三谷さん 倶楽部は、むつき庵と一緒に行動をしていますが、おむつフィッター研修を受けられた方は倶楽部にも入っていただき、一緒に頑張っていけたらと思っています。
去年からは「おかえりなさいむつき庵」を始めさせていただきました。
去年も100人ほどの方が来られました。これはむつき庵あってこその出来事です。
その中で少しでも、むつき庵のお手伝いができればと思います。
少しですが、皆さんにどんどん入っていただいて、ケアを受ける人にとって良い生活を考えていくメンバーが増えていけばいいなあと思っています。これからもずっと頑張っていきたいです。
浜田きよ子 研修って、自分のスキルを上げることが中心だと思われていますが、三谷さんがおっしゃったように、いろんな知識がいるんだということを学ぶものでもあります。
その知識を生かしていくには人とのつながりが大事です。
ではそのつながりをどうやって生み出すのかというと、バリアフリー展だったり、おかえりなさいむつき庵だったり、はいせつケア実践報告会だったり、そういう場での横のつながりを生み出していく。このようなことを重ねながら倶楽部の役割を考え活動できればいいですし、それはとても楽しいことだと思います。ですから今後ともよろしくお願いいたします。
バリアフリー2018の様子
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バリアフリー2018の様子
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第8回はいせつケア実践報告会の一こま
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第8回はいせつケア実践報告会の一こま
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第1回おかえりなさいむつき庵の様子
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第1回おかえりなさいむつき庵の様子
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三谷さん むつき庵ではじめた認定講師。年に数回、事例を持ち寄って検討したり、文章を書かせていただきます。そのメンバーもやはりお互いに持っている視点が違うので、視点が変わればアプローチも変わるので、悩みながらもかかわっていくことで、皆仲が良くなりました。自分のだめなところも受け入れて認識し、改善していく、お互いを認め合うことがすごく大事だとつくづく思います。
困ったことがあると、LINEのグループで相談しあったり。本当に良いつながりがあると思います。だからこれはむつき庵への感謝です。
浜田きよ子 むつき庵も逆に、いろんな方とちゃんとつながっていきたいです。学びあって楽しく過ごしていきたいので、認定講師という活動を始めたこともすごくよかったと思います。
――Fin.
取材メモ:2018年4月、バリアフリー2018に於いて実施。
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